DOJOサポーター中四国支部しろくまです。
前回の文化財についての続きになります。
その国の美術品の絵画、彫刻、陶器、建造物の一部など、戦争による戦利品として略奪されるだけでなく、あらゆる手段で無くなることがあります。
実は、日本美術の作品で重要文化財レベルの作品や国宝まで大多数が欧米に渡っています。
それを目の当たりにしたのは、2017年に日本の東京、名古屋、神戸の3箇所で展示開催された「ボストン美術館」コレクションです。
同館で所蔵されている古代エジプトの出土品、中国美術、日本美術、他、世界中で収集した作品が展示される中で、今回の展示で最も一番注目された作品が約170年振りに初の里帰りするという江戸時代の画家の英一蝶の巨大な「涅槃図」(1713年作)が展示されるとの事でした。滅多にない貴重な作品を見たいと名古屋の展示会に行きました。その時はただ「ぜひ見たい!」という好奇心と単純な気持ちだけでした。
実際に見てみると作品の高さは3m近くあり想像以上の迫力に、その場から動けなくなるくらいの衝撃を受けました。写真では伝わりにくいかもしれませんが、今でも色褪せず緻密で色鮮やかで綺麗なまま現存されていることが奇跡的でした。実物は本当に凄いです。
ボストン美術館所蔵
英一蝶(はなぶさいっちょう)「涅槃図(ねはんず)」1713年
最初はただ「見たい!」という単純な気持ちだったのが見た後に変わりました。
「これほどの作品は国宝レベルではないのか?なぜ日本にないのか?」と強く思いました。他の美術館では見ないような一級品の名品が他にも多数ありました。多くの日本人に日本の歴史を知る上でもぜひ観てもらいたい作品がたくさんあるのに、それもまた遠いアメリカに戻ることに寂しさを感じました。「里帰り」という言い方と日本美術の現状のあり方に納得できないような、この時に何か引っかかるものがあり深く印象に残っていました。
今、問題になっているキャンセルカルチャーから、改めて色々と調べてみました。
日本美術は日本だけでなく、海外には国宝、重要文化財レベルの日本美術を所蔵している美術館や博物館は多くあります。
最も多く日本美術を所蔵しているのはアメリカの「ボストン美術館」と「フリーア美術館」です。
他、「メトロポリタン美術館」、「クリーブランド美術館」など。欧州は「大英博物館」、「ヴィクトリア&アルバート博物館」、「ギメ美術館」、「ライデン国立民族学博物館」です。
【いつ日本美術が流出したのか】
流出したのは大きく分けて三つの時期になります。
・17世紀半ば〜19世紀半ば
・19世紀半ば〜日本開国〜第二次世界大戦終了まで
・戦後から現在
17世紀半ばからはオランダ人が漆器や磁器を欧州へ持ち込まれたり、欧州に多数の浮世絵が流出したりしましたが、この三つの中で最も大量に流失したのは明治維新以降になります。
廃藩置県で中央集権になり旧大名である知藩事が東京居住を命じられ、経済環境の変化から旧大名や家臣が古美術を処分し、東京居住する際に住居が小さくなった事と、古美術、大名道具類は旧藩地でも二束三文であったため大量に売り払われ、市場には古美術が溢れるほど出回り安値で取引されました。
この時、多くの日本人が日本古来の美術品に対して価値を低く見ていました。また明治維新により日本文化よりも欧米文化の方が優れているという風潮がありました。
日本美術の流出の要因には、日本人が日本文化に対し軽視し、無関心だったという事です。
そこに安値で売られていた古美術を大量に蒐集したのが日本開国から押し寄せてきたアメリカ人蒐集家たちです。
大量に蒐集した作品を母国へ持ち込んで美術館や博物館まで作りました。その中には、重要文化財レベルの物から国宝まで貴重な物がたくさんあります。
他にも日本人が大量に美術品を持ち出して海外で売り捌く者もいました。
明治維新以降、大量の美術品が欧米に持ち込まれ、「ボストン美術館」と「フリーア美術館」の日本美術の数々はこの時期に蒐集したものが基礎になります。
欧米は日本美術のコレクションだけでなく、世界各国、欧州にも蒐集が広がっていました。
私も最初の時は「珍しい貴重な作品が見れる」という単純な考えだけだったのですが、それは元々日本にあったもので、明治維新以降、日本人が手放した日本美術が散逸した経緯、時代背景など、日本と諸外国との関わりまでそこまで深く考えていませんでした。
この作品を見たことから今回考えるきっかけにもなりました。日本の文化の大切さ、守ることが重要で、本来なら貴重な作品は日本が保存、管理、研究していくことが日本の立場ではないかと思います。
このことから、昨今の欧米発のキャンセルカルチャーに乗っかる日本人と、明治維新の頃の日本人と昔から変わっていないということがわかります。自国の文化に無関心だと大事な文化を失うということを歴史から学ぶべきです。
次回は、当時のアメリカの作品蒐集について、日本の文化財について書いていきます。
日本人が日本文化を軽視し、無関心だということは今に始まったことじゃないというのは、腹立たしいやら情けないやらで、言葉を失います。
これだけの豊かな文化を持ちながら、そのことに気づきもせず、自ら捨て去って顧みもしない、海外で評価されたら初めて気がつくというのは、いったい何が原因でそうなっているのでしょうか?
とにかくこれを機に、誰もがこの日本人の危うさ、愚かさを自覚しなければならないと、強く思います。